ハインリッヒの法則

インシデントが多い薬局ほど
「安全」になり得る理由

報告は減らすものではなく、育てるもの

結論

インシデント報告が多い薬局は、必ずしも危険ではありません。むしろ、学習が回り始めている薬局である可能性が高い。

理論の解説|ハインリッヒの法則とは何か

ハインリッヒの法則は、労働安全の研究者 ハーバート・ハインリッヒが提唱した「安全三角形」の考え方です。

有名な表現はこれです。

1
重大事故
29
軽微事故
300
ヒヤリハット

ただし、ここで最も重要な注意点があります。

👉 この「1:29:300」は固定比率ではありません。領域・業務・文化によって大きく変動します。

つまり、数字を当てにして予測する理論ではないのです。

ハインリッヒの法則の「本当の使い方」

この法則の本質は、比率ではありません。

重大事故を防ぐ唯一の方法は、ピラミッドの底辺(ヒヤリハット)を可視化し、学習に変えること

可視化
学習

調剤薬局で起きやすい"誤った解釈"

多くの薬局で、こんな反応が起きます。

誤った解釈

インシデントが増えた → 「最近、危なくなっている」

報告が多い店舗 → 「管理が甘い」

正しい読み替え

報告が増えた → 検出感度が上がった

何も報告が出ない → 見えていないだけ

👉 沈黙している薬局ほど、リスクが高い。

調剤薬局への翻訳|インシデントの再定義

まず定義を変えます。

間違った定義

インシデント = ミスの証拠

正しい定義

インシデント = システム欠陥の検出装置

この再定義がない限り、報告文化は絶対に育ちません

具体例|報告が増えたのに事故が減る薬局

1

施策

  • 投薬時の復唱を標準化
  • 「違和感があったら言っていい」と明言
2

起きたこと

  • 患者・家族からの「あれ?」という声が増える
  • ヒヤリハット件数は増加
3

結果

  • 誤薬は投薬前で止まる
  • 重大事故はむしろ減少

👉 これは学習→是正→再発防止の循環が回っている状態です。

ハインリッヒを"資産"に変える運用の型

インシデントを報告させるだけでは不十分です。「回路」にする必要があります。

1

報告(集める)

簡単・短時間・責めない

2

分類(意味づけ)

用法用量薬剤選択規格患者取り違え
3

是正(動かす)

  • • 仕組み変更
  • • ルール修正
  • • 教育の一点集中
4

完了(閉じる)

「やった」で終わらせない
完了日を必ず決める

5

再発監視(学ぶ)

同カテゴリが再出現していないか

KPI|学習する組織を測る指標

事故件数だけを見てはいけません。

見るべきは、次の4つです。

ヒヤリハット報告密度

例:1000枚あたり◯件

是正完了率

報告→対策→完了

再発率

同カテゴリの再出現

上流で止めた率

監査・鑑査で止めた割合

👉 報告数×是正完了率が高い薬局ほど、安全。

安全文化は「数」ではなく「扱い方」で決まる

同じインシデント数でも、

報告が枯れる薬局

  • 責められる
  • 放置される
  • 形だけで終わる

安全が自己増殖する薬局

  • ありがとうと言われる
  • 対策が見える
  • 次に活かされる

明日の一手|最初に変えるべき1点

明日やることは、これだけです。

👉 「報告してくれてありがとう」を必ず口に出す。

それだけで、

報告量
情報の質
学習速度

が確実に変わります。